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開業25年目に大躍進した金沢のトレーナーと、それを支える〝相談役ジュニア〟①

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開業25年目に大躍進した金沢のトレーナーと、それを支える〝相談役ジュニア〟①

日本海に面して広がる石川県・金沢平野の北部に、河北潟(かほくがた)がある。湖沼の中でも、外海から分離してできたつくりの「潟」だが、河北潟は淡水湖。この穏やかな水面を望む位置にあるのが、1周1200メートルのコースと5階建てのスタンド(来場者が入場できるのは1~3階)、40棟以上の厩舎などで構成される金沢競馬場だ。現在の位置に移転して2023年に50周年を迎えたこの競馬場に、昨年は大きな異変が起きた。

1998年に開業して25年目。ベテランの域に入った井樋(いび)一也調教師(59)が年間97勝を挙げ、リーディング4位に食い込んだ。前年までの24年間でベストが年間24勝(2001年)、低迷期には年間2勝という成績に甘んじていたことを思えば、この突然の大躍進が地元で大いに耳目を集めたのも当然のこととうなずける。

「昨年、乗り手が3人になったことが大きかったです。稽古ができると、厩舎が回る。人が少ない競馬場で、乗れる人がいると全然違います」

四半世紀にわたる厩舎経営の中で、何がそこまで大きく変わったのか。シンプルな問いに対して、トレーナーは明快な答えを示した。

海外の主要国や中央競馬では多くの乗り手が調教に騎乗し、集団調教が行われる。しかし、地方競馬では慢性的な人員不足に悩まされてきた。数少ない騎手(金沢では本稿の時点で所属騎手が21人)がフル稼働しても、1頭1頭の調教に割ける時間は限られている。ポイントになるのは、自厩舎で乗り手を確保できるかどうかだ。井樋厩舎には昨年、3人もの乗り手が相次いで加わった。そのうち2人は20代の若手。彼らと意見を交わし、厩舎内を3つのチームに分けて構成する形を採用した。それぞれが目的意識を持ったうえで調教師と意思疎通を図り、チーム同士で切磋琢磨するこの新たな取り組みが、劇的な成績向上とリンクしていることを疑う余地はない。

「やってみるしかない。そういう気持ちでした」

文字にすれば悲壮感すら漂う言葉だが、井樋調教師は誰にも愛されるであろう穏やかな笑みをたたえている。成績が伸びあぐねる中で、若い力の必要性は痛感していた。だからこそ、縁あって厩舎へとやってきた若手の情熱と意欲をくみ取ったトレーナーはひと言、「俺を楽しませてくれ」と口にした。その願いが、想像以上の形で結実していることは昨年の成績と、満面の笑みが物語っている。

そんな井樋厩舎の躍進を支えた一人が、柴田健登厩務員(29)だ。地方競馬には「調教助手」という肩書は存在しない。便宜的な表記としてメディアが使用することはあっても、原則は「厩務員」という立場になる。厩務員=馬の世話をする人、というイメージが先行するものの、冒頭で井樋調教師が好成績の要因に挙げた「乗り手」には柴田厩務員も含まれている。あるいは、熱心な競馬ファンならその名前に聞き覚えがあるかもしれない。

2009年11月4日、JRA競馬学校騎手課程29期生の合格者が発表された。難関を突破した『柴田健登』の名前は、JRAのトップジョッキーであり、騎手クラブの相談役として知られる柴田善臣騎手の次男として話題を呼ぶ。だが、彼はJRAの騎手にならなかった。いや、なることができなかった。卒業まであと半年というタイミングまでカリキュラムをこなしていながら、夜遊びが露見し、体重管理の不徹底も判明。厩舎実習の期間内だったが、競馬学校に送り返された。重いペナルティーは不可避の状況。反省してやり直すという選択もあったが、自ら騎手への道を閉ざすことを決めた。

「めちゃくちゃ天狗(てんぐ)になっていましたね…。若気の至りでした」

入学前まで乗馬の経験はほとんどなかったが、走路練習が始まる頃には頭角を現し、トップの評価を得ていた。そんな矢先の出来事を受けて、退学を決意。しかし、息子に対してそれまでほとんど口を出すことのなかった父が、「今回だけは俺の言うことを聞け」と〝強権〟を発動した。退学を思いとどまり、学校内で騎手課程から厩務員課程へと編入。実技面では当然ながらトップクラスだったが、不足していた厩務員としてのカリキュラムを突貫工事で修了し、競馬学校を卒業する。美浦トレセンで持ち乗り調教助手として就業。正規の配属先が決まる前の試用期間にも、その騎乗技術が評価されてGI出走馬の調教を任されることがあった。

「あれはめちゃくちゃ緊張しましたね…。でも、実際に勝ってくれて。本当にいい経験をさせてもらいました」

新たな道で順風満帆の滑り出し。ところが、その調教助手としてのキャリアも、わずか4年あまりで終止符を打つ。今度は若気の至りでも何でもなく、自身の信念を貫いた末の決断だった。「これからは自分の力で稼ぎたい、と考えました」。馬の世界を離れ、実力を評価されることを望んだ結果、たどり着いたのはある一般企業だった。(2回目に続く)

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