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開業25年目に大躍進した金沢のトレーナーと、それを支える〝相談役ジュニア〟②

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開業25年目に大躍進した金沢のトレーナーと、それを支える〝相談役ジュニア〟②

開業25年目の2022年に、それまでの自己ベストを一気に4倍以上へと塗り替える年間97勝を挙げたのが金沢競馬場の井樋一也調教師(59)。異例の大躍進を遂げた背景には、新たに加わった若きホースマンの情熱と技術を信頼して構築した〝チーム制〟の厩舎運営があった。その中軸を担った柴田健登厩務員(29)は、JRA最年長として活躍する柴田善臣騎手(57)の次男。難関を突破してJRA競馬学校の騎手課程に合格しながら、厩務員課程へと編入した後、自らの意思で調教助手という立場を捨ててトレセンを退職した。その先に進んだ道は…。(全3回の2回目。1回目はこちら)。

JRAの競馬学校は、名前こそ『学校』だが、法律に基づく学校ではない。トレセンを退職したため、「学歴としては中卒でしかなかった」という立場になった〝柴田青年〟は、実力主義との噂を耳にして大手の中古車販売業者に就職した。

「完全な成果報酬でした。学歴がなくても、やったぶんだけもらえる、というのはモチベーションになったんです。何より直接お客さんからお金をいただく仕事だったので、そのありがたみを学びました」

持ち前のガッツで店舗の最優秀販売員賞に輝くこともあったが、社内のネガティブな面を見ることもあった。そこで、その後は社会勉強の一環と割り切って転職を重ねる。次は派遣社員として製薬会社の工場に勤務し、大学院卒業生らとともに薬剤を生産。さらにトラック運転手にもなった。一貫性がないようにも見えるが、「モノを売る」「モノを作る」「物流の仕組みを知る」という順に仕事を選び、社会人としての見識、そして人とのコミュニケーションの幅を広げた。次の転職で乗馬インストラクターとして馬の世界に戻ったときに、これらの経験が生きる。お金を払って乗馬をする顧客への感謝、サービスのあり方を考えながら業務に臨んだ。知識と技術をただ教えるのではなく、工夫したサービスとして提供する。これを喜んでくれる利用者の反応に満足感を得られた。だが、自身が身につけた技術を再認識するとともに、ファンの立場から見る競馬の魅力を知ったことで、ひとつの気持ちが芽生えてくる。

「いま、これだけのことをやってきて厩務員になったらどうなるのかな…」

期せずして、勤務先の乗馬クラブでは生まれ育った茨城県から金沢へ転勤していた。2019年、ひとまず地元にある競馬場を見ておこうと金沢競馬場に足を運んだとき、案内された調騎会に一人の調教師がいたことからとんとん拍子に採用まで話が進んだ。当時まだ24歳。稀有な回り道を重ねてきたが、北陸の地で新たなスタートを切るには十分な若さだった。「おお、そうか。それしかないな。頑張れや」。父から届いたシンプルなエールを胸に、厩務員としてのリスタートを切った。

一方、開業から20年が過ぎていた井樋厩舎は好結果が出ない日々が続いていた。馬がいても、乗り手がいなくては思い通りの調教がこなせない。人馬の相性などで思いつく策があっても、限られた選択肢の中でそれを試す余裕はなかった。

佐賀県に生まれたが、縁あって所属した金沢競馬で騎手としての生活にピリオドを打ち、34歳の若さで厩舎を開業。間もなく成績も軌道に乗った。しかし、一時期は年間わずか2勝にとどまるなど苦境が続く。それでも地道に経営を続け、17年ぶりに15勝のラインを超える成績を残した2021年、思わぬ話が舞い込んだ。所属調教師の勇退が近づく中、移籍先を探していた若手厩務員から打診があったのだ。それが柴田健登厩務員だった。他厩舎ながら、「いつも頑張っている子だな」と見ていたものの、当然、その父の存在も知っていた。「自分のところでいいのか…」という驚きもあったが、「若い力が欲しかった」という気持ちに勝るものはなかった。



金沢競馬は積雪の多い1、2月がオフシーズンとなる。2022年、新生・井樋厩舎はシーズン開幕日の3月13日にいきなり第1レースを制して好スタートを切ると、翌日には一気に3勝をマークして勢いに乗った。成績が上がると、周囲の評価も当然変わる。それまでに縁がなかったオーナーから預託の依頼が増えるのは自然な流れといえるが、厩舎の取り組み方に対する注目度も高まり、新たに騎乗技術の高い2人の厩務員がスタッフに加わった。人が変われば、馬も変わる。理屈は分かるが、そこまで劇的に変わるものなのだろうか。その問いに、井樋調教師はきっぱりと答えた。

「変わります!」

終わってみれば、97勝を挙げてリーディング4位という躍進。トレーナーの表情と口ぶりには、充実感があふれていた。だが、これだけの好成績を収めても決して満足してはいない。

「これからは、全国の交流競走でも結果を出せるように。いい競馬をすれば、もっと変われると思います。やれることはたくさんある」

その言葉は、一調教師の思いにとどまらず、金沢競馬ひいては地方競馬全体にも通じるメッセージといえる。さらなる発展のために何が必要なのか。競馬場全体でも、その答えを模索する取り組みが始まっている。(3回目に続く)

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