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開業25年目に大躍進した金沢のトレーナーと、それを支える〝相談役ジュニア〟③

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開業25年目に大躍進した金沢のトレーナーと、それを支える〝相談役ジュニア〟③

2022年に金沢競馬で年間97勝という好成績を残した井樋一也調教師(59)は、確かな騎乗技術を持つ柴田健登厩務員(29)らスタッフの意見をくみ取って厩舎内にチーム制を導入するなど、さまざまなチャレンジをした結果、金沢競馬場に新たな風を吹き込んだ。ダート競馬の新時代到来を目前に控えたいま、さらなる発展を見据えた関係者はどういう動きをしていくのか。(全3回の3回目。1回目、2回目)

金沢には、戦後まもなくから今に至るまで伝承されている集団演技『若い力』がある。もともとは国民体育大会のために作られた楽曲だが、1947年の石川国体の際に制作された経緯があり、金沢市では歌に合わせて集団演技を行う伝統が受け継がれてきた。市民に深く根付いたスポーツ文化といえる。

この金沢市にある金沢競馬の事業をつかさどるのは、石川県競馬事業局。現在、事業局のトップを務めるのは臼井晴基局長だ。コロナウイルスの流行に伴う〝巣ごもり需要〟が一段落して各種公営競技の売り上げは今年に入って頭打ち傾向が見える中、金沢競馬は2023年上半期の売り上げが前年より増加。現在の位置に移転して50周年というメモリアルイヤーの取り組みが実を結びつつある。

「50周年は、区切りではなく新しいスタートと考えています。次の50年、次の世代につないでいくために、ですね。そのためにまず、足元でできることをやろうとしています」

時には入場門でファンの来場を出迎え、時には場内で率先してごみ拾いもしているトップの姿は、異例といえる。こうした姿勢を見て、〝協力できることがあれば〟と騎手会はレース前のインターネット番組出演を申し出た。また、スタンド美化や厩舎関係者の住居待遇など、環境整備にも着手している。

「ネットの時代と言われていて、そうした方面の情報発信も当然、力を入れますが、やはりレースそのものだけでなく、金沢という地の利も生かした『行きたくなる競馬場』にしていく必要があると考えています。そうした競馬場を支えていくのは関係者であり、新しい人が入ってきて盛り上げに力を発揮してくださるのは本当にありがたいことです」

バブル崩壊後、いくつもの競馬場が廃止に追い込まれた。金沢も例外ではなく、存廃が議論されたこともある。厳しい時期を乗り越え、JRAとの相互発売などインターネット販売もあって売上は持ち直した。だが、見据えるのはさらにその先だ。ファンに愛される競馬場を提供し、深く根付かせていくことを臼井局長は願っている。金沢競馬場にはこの1、2年、20代のホースマンが増えてきた。〝若い力〟を組織のトップが温かく見守ることは、必ずや今後の発展につながっていくはずだ。

2022年に大躍進を遂げた井樋一也厩舎の勢いは、23年なっても加速している。8月24日時点で72勝。前年を上回るハイペースで勝ち星を積み重ね、陣営は「何とかリーディングを」(柴田健登厩務員)と奮闘している。そんな井樋厩舎を支えるスタッフの一人が、女性厩務員の「ゆうか」さんだ。複数のSNSに競走馬のさまざまな姿を投稿し、チームの『広報担当』を務めている。

伯父の同級生に金沢競馬の騎手がいたため、家族で応援に来たことが始まり。金沢のサラブレッドと騎手に魅了されると、約14年にわたってカメラを手に通い詰め、「競馬場に来られない人に見てもらえたら…という気持ち」でSNSに投稿していた。その内容を目にした柴田厩務員が〝全ての競走馬にあるストーリー、ドラマを、たくさんの人に発信できる〟と見込んで厩舎スタッフに勧誘。ゆうかさんは乗馬経験こそあったもののブランクが長く、唐突なスカウトへの戸惑いはあったが、働いていたデパ地下の食料品店はコロナ禍による業績不振で未来が見通せない状況にあった。反対する家族を説得して、未知の世界に飛び込んで2年あまり。昨年5月に重賞、徽軫(ことじ)賞を制したネオアマゾネスに携わり、「たくさん勉強させてもらいました」と述懐する。ファンからホースマンへ立場は激変したが、若い世代に金沢競馬を根付かせるための情報発信をしながら実務経験を重ね、厩舎のさらなる戦力となるべく活動する日々だ。

今秋の2歳戦に始まり、来年からはJRAも含めたダートグレードレースの路線が整備され、地方競馬に新たな時代がやってくる。井樋厩舎の飛躍が新しい風を吹かせているのは確かだが、現実問題として金沢競馬場に全国区の活躍を見込める馬は決して多くない。それでも、来るべきその日に向けて、技術を磨き、ノウハウを蓄積していくことが唯一無二の道となる。

「成績は確実に上がってきているので、まずは地方馬同士の他地区の交流競走でいい結果を残せるように。馬が高いレベルに入っていくことで、僕たちもまた育っていけると思います」

柴田厩務員の言葉は、金沢に限らず全国区での苦戦が続く地域のホースマンに通じる共通の意識だろう。井樋調教師も「いい競馬をすれば変わるんです」とうなずいた。8月22日には名古屋競馬の「北陸・東海チャンピオンシップ2023 ベイスプリント」に遠征した井樋厩舎のアルカウン(牝6歳)が勝利。厩舎は一歩一歩、確かに階段を上っている。

長年の低迷から劇的な飛躍を遂げたトレーナーと、若気の至りからさまざまな経験を積んで成長した厩務員。2人の姿は、地方競馬にまだまだ大きな伸びしろが残されていることを物語っている。移転から半世紀を経た金沢競馬場で進む新たな取り組みが、いつの日か記録にも記憶にも残る結果として実を結ぶことを願ってやまない。

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